前回は「ガバ鋳込み」でティーポットができるまでを詳しくレポートさせていただきました。 今回は「圧力鋳込み」のレポートです。
ティーポットなどの袋物は、型に泥を流し込み、一定時間経過後にがばっと余分な泥を流して形を作りますが、複雑な形や内側にも形があるものは「圧力鋳込み」という方法で成形します。
あの美しい形のドリッパーはどのように出来るのでしょうか?ZEROJAPAN井上社長に教えていただきました!
1.粘土づくり → 2.圧力鋳込み → 3.成形 を詳しくレポートします。
1-1 小竹製陶所
2014年8月、良く晴れた日。
太陽がジリジリ照りつけます。
岐阜県多治見市の小竹製陶所様にお邪魔させていただきます。
1-2 粘土づくり/タンクで練る
奥にあるタンクの中に陶土が入っています。タンクの中で陶土が錬られます。
錬った粘土を手前の板に送り込み、生地の原料となる粘土の板をつくっていきます。
1-3 粘土づくり/木枠に注入
木の枠の両側に布のようなものがかかっています。
この布の真ん中に穴が開いていて、一気に何枚もの板の枠に粘土を注入していきます。
1-4 粘土づくり/水分を抜く
枠は木の棒にかけてあり、余分な水分が下に落ちるようになっています。
水分が抜けたところで、枠から粘土の板を外します。これは人の手で行います。
掛け声をかけながら外していく、大変に力のいる作業だとのこと。
2-1 圧力鋳込み/圧力鋳込みタンク
圧力鋳込み用の粘土が入っているタンク。
タンクの近くでは扇風機が回っています。いくつもこのような作業場を見学させていただきましたが、冷房設備が入っているところはありませんでした。
作業場所は広々していてある程度風通しはいいものの、日本一の暑さといわれる多治見市、暑いことに変わりありません。
でも、みなさん汗をかきつつも、笑顔で元気に作業をしていらっしゃいました。
2-2 圧力鋳込み/真空脱泡機
粘土の泡を取り除く機械です。
圧力鋳込み用の粘土は粘度が高く、攪拌時に混入した気泡は自然には抜けません。
そこで、タンク内部を真空状態にして強制的に気泡を取り除きます。
脱泡を行って細かな気泡まで取り除かないと、製品内に気泡が入り込み、焼成時にピンホールと呼ばれる小さな穴が出来てしまいます。
鋳込み時の圧力などもこの計器で確認します。
2-3 圧力鋳込み/石膏型
ドリッパーの石膏型が、6つずつ縦に重ねられています。この型に、下の台座から高圧力で粘土を入れていきます。
型は「粘土の通り道となる穴」で全て繋がっていて、1番下の型がいっぱいになると、下から2番目の型に粘土が入っていきます。
2-4 圧力鋳込み/型から外す
石膏の型がある程度水分を吸い、粘土が固まったところで、手作業で型からドリッパーを外します。
型のパーツはぴったりくっついているので、エアを吹きかけて外します。型には、エアをあてるくぼみまできちんとつくられています。
2-5 圧力鋳込み/型のパーツ
ドリッパーは複雑な形なので、型は4つのパーツでできています。
ちなみにお皿などの単純な形であれば、パーツは上下だけの2つで済みます。
このドリッパーの石膏型も前回レポートした黒田製型所様で作られています。
2-6 圧力鋳込み/型から外す
型のひとつひとつは、水分を吸ってずっしりと重たくなっています。
中のドリッパーはまだ柔らかいので、強い力を加えると歪んでしまいます。
丁寧なさばきで型から外していきます。
2-7 圧力鋳込み/粘土の入る穴
溝の両脇にある小さな穴が、ドリッパー本体の部分に粘土が入っていく穴です。
かなり小さいです!
型から外したあとのこの穴の部分は、わずかに粘土が突起した「バリ」となります。
3-1 成形/バリをとる道具
左側の先のとがった金属で、「バリ」を削ります。
かなり年季の入った小道具です。
ちなみに、この道具の先のまわりに小さくみえる粒が、ドリッパーから取り除いたバリです。
3-2 成形/型から外したドリッパー
型から外したドリッパーです。
この時点では、取っ手の部分に、型の合わせ目の跡がわずかに残っています。
まだかなり水分を含んでおり、灰色です。
3-3 成形/もろいたに乗ったドリッパー
製造中の陶器は、次の作業場に運ぶ際、「もろいた」と呼ばれる板に並べて運ばれます。
いくつもポットやドリッパーを並べた、身長以上はありそうなもろいたを、みなさんバランスをとりながら「ひょい」と持ってスタスタ歩いていきます。
もろいたは、男性だけが持つのではないのです。
女性も当たり前に持って運びます。この技は、う~ん、あまりにすごい(*_*;
3-4 成形/表面仕上げ
生地を乾燥させたら、成形の最後に仕上げの作業です。
水を含ませたスポンジで生地の表面や渕の部分をひとつひとつ丁寧にふきあげます。
焼成時の釉薬の乗りや仕上がりを良くするための作業でもあり、おろそかにできない大切な作業です。寒い冬には、さすがにお湯を使うそうですが、手が荒れてガサガサになってしまうそうです。
3-5 成形/素焼き前
もろいたの上に沢山並べられている素焼き前のドリッパー。
乾燥が進んで、かなり白っぽい色になっています。
3-6 成形/素焼き前のキッチンコンテナ
四万十ひのきのフタはついていませんが、お馴染みのキッチンコンテナも並んでいます。
この後、素焼き → 施釉 → 本焼成 で、完成となります。
(詳しくは第1弾でレポート済みです。)
ドリッパー完成
完成したドリッパーです。
いくつもの過程があり、何人もの職人さんの手を通り、やっと完成です。
考え抜かれたシンプルで無駄のない形、艶のあるなめらかな表面、そして美しい色です。
今回、圧力鋳込みという成形方法を学ぶことができました。
前回はガバ鋳込みでポットの成形を見学させていただきましたが
それなら、ドリッパーの「内側のみぞ」はどうやってつくっているのだろう?
という謎もスッキリ取れました。
つくるものの形状や数によって、それに見合った最適な方法があります。
それを実現させるための技術と設備。それから大切な、熟練の職人さん達。
井上社長のお話はいつも、「こんなものをつくりたい」という想いに溢れていらっしゃいます。
芸術作品のように、思い通りの満足できる1つをつくればいいのではありません。
形にしたものを世界各国の沢山の人に届け、使って、喜んでいただく。本当に大変なことだと思います。
常識、慣例、限界。当たり前のようにそういうものがある中で、
決して諦めず、知恵を絞り、工夫を重ねて、その想いを実現し続けているものづくりに関わる皆さんの姿にとても感銘を受けています。
一人でも多くの方にZEROJAPANの良さを知っていただけるよう、もっともっと頑張ろう、と思いを新たにしたのでした。